交通事故が原因で発症した高次脳機能障害は、長期的に介護を必要とする場合も多い深刻な後遺障害です。そのため、加害者に損害賠償を請求する際は、治療費などの目先の費用だけでなく、将来の介護費も考慮する必要があります。そうでなければ、家族の介護にかかる高額な費用を自己負担せざるを得なくなってしまうかもしれません。

そして適切な将来介護費を損害賠償として認めてもらうためには、介護の必要性や内容を正しく証明することが欠かせません。本記事では、将来介護費の考え方や認定のポイントをわかりやすく解説します。

高次脳機能障害における将来介護費とは


高次脳機能障害とは、交通事故などで脳が損傷し、その結果注意力や記憶力、感情のコントロールなどが大きく損なわれる状態を指します。なかでも重度の後遺障害が残ってしまう場合は、被害者が自立した生活を送るのが難しくなり、家族や身の回りの人の介護や見守りが生涯にわたって必要になることも。こうした際に今後介護にかかる費用を「将来介護費」と言い、交通事故の損害賠償請求額に大きく影響します

将来介護費には、食事や排せつ、入浴などの日常生活の介助に要する費用だけでなく、医療的な看護が必要な場合の「看護費」も含まれます。ただし、将来介護費は「過去に発生した費用」ではなく「未来に発生すると見込まれる費用」であるため、その金額の妥当性を証明することが不可欠です。

高次脳機能障害の将来介護費が認められやすい後遺障害等級


将来介護費が損害賠償で認められるかどうかは、被害者の後遺障害等級の認定に大きく左右されます。常時介護を必要とする1級や随時介護を必要とする2級に該当する場合、将来介護費は高い確率で認められるでしょう。特に高次脳機能障害によって意思疎通が困難になり、日常生活全般に介助が欠かせない状態であれば、数百万から数千万円に及ぶ高額な将来介護費を請求できることも珍しくありません。

では、一定の日常生活に支障がないとされる後遺障害等級3級以下では一切将来介護費が認められないのでしょうか?そんなことはなく、症状の程度によっては将来介護費が認められるケースもあります。例えば、被害者が日常生活の動作を一人ですることができるとしても、事故の危険が高い場合や、第三者に危害が及ばないように常に行動の監督が必要な場合などが該当します。

そのため、認定された等級が3級以下だったとしても「将来介護費は認められないだろう」と諦める必要はなく、実際の介護状況を具体的に立証できれば請求できる可能性は十分残されています。

高次脳機能障害の将来介護費の金額を左右する4つの要因


将来介護費は一律に決まるものではなく、被害者の年齢や介護の内容、介護を担う人の立場など、さまざまな条件によって異なります。ここでは、金額を左右する代表的な4つの要因について解説します。

介護に要する期間

将来介護費の金額は、介護が必要とされる期間の長さによって大きく変わります交通事故の被害者の年齢が低いほど、介護が必要な期間は長期にわたるため高額になります。裁判では平均余命を基準に算定されることが多いですが、医学的見解や症状の進行度によって期間が調整されるケースもあります。

常時介護か、随時介護か?

日常生活のほぼすべてにおいて介助が欠かせない状態である「常時介護」では、高額な介護費用が認定されやすくなります。一方で、一定の身辺動作や外出等について見守りや声かけ、補助を必要とする「随時介護」では、「常時介護」と比較すれば、金額は相対的に低く算定される可能性が高いです。

自宅介護か、施設介護か?

介護の場が自宅か施設かによっても、将来介護費の算定額は変わります。自宅介護の場合は、主に近親者介護と職業付添人介護に分けられ、後述のとおり、それぞれ異なる費用が認定されます。

また、施設介護の場合は、入居する施設の種類や提供されるサービス内容によって大きく異なりますが、基本的には実費相当額が損害と認められます

近親者介護か、職業人介護か?

介護を担うのが家族などの近親者か、専門の介護職員かによっても評価は異なります。近親者が無償で介護を行う際もその労力は経済的価値としてみなされ、目安として日額8,000円程度が将来介護費に反映されます

一方で、ヘルパーや看護師による職業人介護が必要な場合には、実費相当額が介護費用として認定されることが多く、日額1万円〜3万円程度で換算されます

ただし、上記の将来介護費の金額は目安であり、具体的な看護の状況によって増減される場合があります。

適切な将来介護費が認定されるためのポイント


将来介護費を正しく認めてもらうためには、まずは、適切な後遺障害等級を獲得する必要があります。そのため、後遺障害等級認定に必要な頭部の画像検査資料や後遺障害診断書といった医師作成の資料による後遺障害の内容の説明が不可欠です。そのうえで高次脳機能障害の具体的な症状や介護の必要性を診断書や意見書などの形で明記してもらうことができれば、裁判所や保険会社に対する説得力を持たせられます。

また、日常的な介護の程度を客観的に示すことも大切です。介護者による詳細な介護内容や日常生活の様子を記録した日誌や写真、場合によっては動画などを撮影しておくと有効な証拠となり得ます。

さらに、将来にわたり必要となる介護費用獲得の見通しの判断は専門的な事項なので、実際に交通事故による高次脳機能障害の損害賠償請求に関わったことのある弁護士に相談するのが確実です。特に、加害者やその代理人となる保険会社は被害者の症状や介護の状態を過小、あるいは懐疑的に評価する傾向があるので、適正な将来介護費を確保するためにはその分野の専門家を味方につけた方がいいでしょう

まとめ


高次脳機能障害による将来介護費は、被害者の症状や介護の必要性の度合いによって大きく異なります。そのため、保険会社から提示された将来介護費を鵜呑みにしてそのまま示談を終えてしまうと、後になって十分な介護ができるほどの金額ではなかったと気付くことになるかもしれません。

適切な将来介護費の算定には専門知識が不可欠なので、保険会社の損害賠償額に少しでも納得できない場合は、必ず弁護士を頼りましょう。

交通事故で高次脳機能障害と診断された場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。より早い段階で相談いただくことで前もって適切な対応をお伝えできます。

「交通事故の相談窓口」では、高次脳機能障害と診断された後の対応や後遺障害認定手続きをサポートします。初回相談は無料ですので、お気軽にご相談ください。

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