交通事故を原因とする高次脳機能障害において、認定される後遺障害等級はその後の生活を支える賠償額を大きく左右します。しかし、高次脳機能障害は記憶障害や性格の変化といった目に見えにくい症状が発症することが珍しくなく、等級が適切に評価されないケースもあります。そこで等級の決定に納得できない場合に検討したいのが、「等級認定結果への異議申し立て」です。異議申し立てにより結果を覆すことができれば、等級の見直し、ひいては賠償額の増額につながる可能性が高まります。
本記事では、異議申し立ての基本的知識に加え、より良い結果を導くために大切なことや注意点を専門の弁護士の視点から詳しく解説します。
〈 記事監修 〉
弁護士 戸倉 賢一郎
交通事故の中でも重度後遺障害案件を得意としており、加害者側の保険会社の代理人として多数の後遺障害事案に従事した経験を持つ。その豊富な経験と医学的知見、多様な紛争解決で培った交渉力を活かし、現在は被害者側の弁護士として高次脳機能障害をはじめとした重度後遺障害の適正な等級認定と正当な賠償額の獲得に注力している。

- 1. 高次脳機能障害の後遺障害等級に差が出やすい理由
- 2. 後遺障害等級が低くなりやすいケースとは
- 2.1. 加害者側の保険会社が申請している(事前認定)
- 2.2. 提出書類に不足や不備がある
- 2.3. 医師の協力を十分に得られていない
- 3. 異議申し立てをする前に知っておきたいこと
- 3.1. 異議申し立ての流れと期限
- 3.2. 追加提出が必要な書類
- 3.3. 初回申請時の等級認定理由
- 4. 異議申立書の基本構成と作成時の注意点
- 4.1.1. 基本構成
- 4.1. 作成時の注意点
- 5. 見直しが認められやすい異議申し立てのポイント
- 5.1. 実際の症状と医師の診断結果に一貫性を持たせる
- 5.2. 初回の認定結果が不適切な理由を具体的に示す
- 5.3. 希望する後遺障害等級を明確にする
- 6. 異議申し立てを弁護士に相談した方が良い理由
- 7. すでに弁護士に依頼しているもののセカンドオピニオンがほしい方へ
- 8. まとめ
- 9. 高次脳機能障害の異議申し立てはご相談ください
高次脳機能障害の後遺障害等級に差が出やすい理由
高次脳機能障害は、弁護士や医師など専門家の間でも後遺障害等級に関する意見が分かれる極めて複雑な症状です。その最大の理由には、高次脳機能障害は骨折や出血のような外傷とは異なり、外見や画像診断だけで全ての症状を把握し切れないという点があります。認知障害や人格変化といった障害は事故前後の比較が難しく、主観的な判断が混ざりやすいため、事故との因果関係や障害の程度の立証が容易ではありません。
例えば、日常的に生活を共にする家族が深刻な症状を感じていたとしても、医師は被害者のことを短時間の診察の中でしか判断できず、また、審査を担う自賠責損害調査事務所は提出された書類から評価せざるを得ません。こうした家族・医師・調査機関の三者の間にある情報のギャップを埋められないことが、結果的に各々が認識する症状の乖離につながってしまうのです。
後遺障害等級が低くなりやすいケースとは

後遺障害等級が本来あるべき等級よりも低く認定されてしまうことには、明確な原因があります。特に以下のようなケースに該当する場合は低い等級認定がなされやすいので、異議申し立てによって結果を覆せる余地があります。
加害者側の保険会社が申請している(事前認定)
後遺障害等級認定の申請の手続きを加害者側の任意保険会社に委ねる方法を「事前認定」と言いますが、被害者側が弁護士に示談交渉を依頼せずに保険会社主導で進める場合は、この手続きが取られるのが一般的です。事前認定は、申請における被害者側の手間が省ける一方で、手続きの仕方や提出書類は保険会社の裁量次第なので、その過程が不透明になってしまうというデメリットがあります。
保険会社にとって、高い後遺障害等級が認定されることは自社が支払う賠償額の増額を意味するため、保険会社が被害者に有利な追加資料を積極的に収集し、提出してくれることは期待できません。結果的に、事前認定の場合は材料不足のまま審査されて低い等級に留まってしまうことがあります。
提出書類に不足や不備がある
高次脳機能障害の後遺障害等級認定の申請では、CTやMRIなどによる頭部の画像検査資料と診断書・後遺障害診断書が不可欠です。これに加えて、「神経系統の障害に関する医学的意見」や「頭部外傷後の意識障害についての所見」、さらには被害者の家族や介護者が作成する「日常生活状況報告」といった書類の提出も、適切な後遺障害等級の評価のためには望まれます。こうした書類が不足していると、調査機関は被害者の正確な症状を判断できません。
また、日常生活では明らかな支障が出ているにもかかわらず、書類の記載内容が抽象的・簡易的であったり、検査結果との因果関係が示されていないといった説明不足の場合も、希望する等級認定を得られない可能性が高いです。
医師の協力を十分に得られていない
等級認定の審査の材料として最も大きなものの1つに、医師が作成する後遺障害診断書があります。ところが、主治医が必ずしも後遺障害診断書の書き方に精通しているとは限らず、自賠責保険の認定基準まで熟知して作成してくれる医師は稀でしょう。たとえ医学的には正しい記述であっても、等級認定の観点から見ると「何がどの程度できないのか」が読み取れないというケースもあります。
特に、就労能力への影響や社会生活での具体的支障、事故前との能力差などが診断書上で明確になっていれば、正しい評価がなされる可能性が高まりますが、必ずしもそのような記載がなされるとは限りません。また、仮に被害者が医師にこうした説明をしていたとしても、医師が被害者の主張をないがしろにして適切な診断書を書いてもらえない場合も、やはり正しい評価を得ることが難しくなるので、医師に協力を仰ぐことは等級認定において非常に重要です。
異議申し立てをする前に知っておきたいこと

異議申し立ての準備を始める前に、まずは手続きの全体像をつかんでおきましょう。スケジュール感や必要な書類を把握したうえで、初回申請時の等級認定理由を分析して対策を立てることが、異議申し立てを成功させる第一歩です。
異議申し立ての流れと期限
等級認定結果の異議申し立ての手続きは、加害者側の自賠責保険会社に対して「異議申立書」を提出することから始まります。初回の等級結果を事前認定で受けていた場合でも、被害者側が申請を行うこともできるので、異議申し立て時はそのようにした方が望ましいでしょう。
流れとしては、以降に説明する追加書類を添えた異議申立書を送付した後、自賠責保険調査事務所にて再審査が行われます。2~4か月程度の再審査期間を経て、主に保険会社を通じて申立人に結果が通知されます。高い等級に変更されれば、自賠責分の保険金額の支払いが行われます。
自賠責保険への請求権は「症状固定日の翌日から3年」という時効があり、それ以降は異議申し立てを受け付けてもらえないため、計画的に準備して早めの対応を心掛けましょう。
追加提出が必要な書類
異議申し立てには、初回申請時の資料を申し立て内容に応じて適宜修正したものに加え、異議申立書と新たな証拠の提出が欠かせません。新たな証拠とは具体的には、初回で実施していなかった神経心理検査の結果、より精密な画像診断、あるいは日常生活状況報告を詳細に書き直したものなどが挙げられます。また、職場や学校など周囲の関係者による事故前後の変化に関する陳述書なども、社会適応能力を証明する強力な補足資料となります。
初回申請時の等級認定理由
異議申し立てをする前に、前回の認定結果をしっかり分析しましょう。非該当(等級なし)だった場合はもちろん、認定された等級が想定よりも低い場合でも、「なぜその判断に至ったのか」という根拠を突き止めなければ、反論の主張がズレてしまうかもしれません。通知書(「後遺障害等級認定のご連絡」、「自動車損害賠償責任保険お支払不能のご通知」)には結論と理由が簡潔に記されているので、これを分析し、書類に不足や不備があったのか、求める等級認定に相応しい症状を証明できなかったのか、それは具体的にどのような点なのか、などを特定することができれば、異議申立書で説明する方向性も明確になります。
異議申立書の基本構成と作成時の注意点
被害者請求の場合、異議申立書は決まったフォーマットがあるわけではありませんが、最低限の情報を記載しなければ審査がスムーズに進まなかったり、異議申し立てが認められないリスクがあります。以下に基本構成と注意点を示すので、作成時のご参考にしてください。
基本構成
◆ 基本情報
タイトル(「異議申立書」と記載)/宛先の保険会社名/作成日/申立人の氏名・住所・連絡先・捺印/被害者氏名・申立人との関係/加害者の自賠責保険の証明書番号/事故発生日など
◆ 異議申し立ての趣旨
「後遺障害等級〇級〇号の認定を求める」と明記する。複数の後遺障害がある場合には、どの部分に不服があるのかを記載する。
◆ 異議申し立ての理由
初回の認定で見逃されているポイント、事故と症状の因果関係、生活への支障などを添付書類と関連付けながら論理的に説明する。
◆ 添付資料名
修正した診断書、日常生活状況報告など、異議申し立てにおいて審査の材料として追加で提出したい書類の名称を記載し、資料は別途添付する。
作成時の注意点
「生活が苦しい」「納得できない」等の感情的な訴えは、審査において評価されません。あくまで自賠責の認定基準に照らし合わせ、現在の症状がどの基準に該当するかを事実ベースで記述する必要があります。また、医師の意見書を添付する場合は、申立書の内容と矛盾が生じないよう事前に整合性を確認しましょう。
見直しが認められやすい異議申し立てのポイント

異議申し立てを成功させるためには、審査担当者に「この症状なら明らかに希望している等級に該当する」と思わせる客観性が必要です。見直しが認められやすい異議申し立てのポイントを以下に紹介します。
実際の症状と医師の診断結果に一貫性を持たせる
まず、被害者や家族が訴える症状と医師の作成した診断書・後遺障害診断書・意見書の結果が一致していることは最低条件です。例えば、家族が日常生活報告書の中で「性格が豹変して怒りっぽくなった」と指摘していても、医師が作成した意見書の該当する項目では「問題なし」と示されている場合、家族の主張は客観的な裏付けがないものとして退けられてしまいます。
証拠の信頼性を高めるために、医師に対して日常生活の実態を正確に伝え、家族の主張と医師の評価に齟齬がないようにしましょう。
初回の認定結果が不適切な理由を具体的に示す
評価基準と対応させながら、初回の認定が誤っている理由を明確に指摘することで見直しの対象となる可能性が高まります。そのためには、「症状が重い」「生活に支障がある」といった抽象的な表現では判断材料として不十分です。
ポイントとしては、初回認定で示された判断理由に対し、「どの能力低下が過小評価されているのか」を分解して示すと良いでしょう。例えば、審査担当者が「自立した生活が可能」と判断していたなら、「記憶障害により火の不始末を繰り返すため、実際には常時の見守りが必要である」といった事実を突き付け、認定基準にある「介護を要する状態」に該当することを論理的に示します。
このように、審査担当者が見落としていた、あるいは軽く見ていた事実にスポットを当て、認定基準に照らし合わせて本来あるべき等級の根拠を示すことが大切です。
希望する後遺障害等級を明確にする
前回の認定理由の不適切さを指摘すると同時に、希望する等級を示すことでゴールを明確にしましょう。高次脳機能障害の認定基準は多岐にわたりますが、現在の被害者の症状が希望の等級に求められる要件をすべて満たしていることを証明し、証拠となる材料が揃っていれば、審査側も見直しを認めざるを得ません。どの等級が適切であるか判断できない場合は、専門家に相談するのが確実です。
異議申し立てを弁護士に相談した方が良い理由
後遺障害等級の異議申し立ては、医学と法律両面の専門性が求められる高難度の手続きです。ここまで見てきたように、書類の作成だけでも相当な知識と論理展開が必要なだけでなく、その過程で医師や保険会社、場合によっては被害者の職場や学校の関係者に対する交渉や依頼も発生します。これらすべての対応と手続きを被害者家族が自身で行うことは極めて困難であるため、等級見直しの確率を上げることを望むのであれば弁護士に依頼することが望ましいと言えます。
また、弁護士が代理人となることで、被害者側の主張としての説得力が増し、保険会社との示談交渉においても、裁判基準(弁護士基準)による高額な賠償請求が可能になります。異議申し立ては一度失敗すると次のハードルがさらに上がるため、最初から専門家の力を借りることが、結果的に最短で最良の解決につながります。
すでに弁護士に依頼しているもののセカンドオピニオンがほしい方へ
現在弁護士に依頼中であっても、担当弁護士が高次脳機能障害に詳しくなかったり、認定結果に納得がいかないことを伝えても協力してくれないといった場合は、他の弁護士によるセカンドオピニオンを受けることをお勧めします。
別の弁護士のもとで新たな角度から資料を精査することで突破口が見つかるケースも多々あります。
まとめ
高次脳機能障害の異議申し立ては、被害者とそのご家族にとって負担が大きい手続きですが、適切な準備を行えば等級が見直される可能性は十分にあります。
しかし、認定理由の分析や新たな医学的根拠の収集、日常生活の実態を反映した論理的な異議申立書の作成などを法律知識を備えていない個人が行うのは困難です。後遺障害等級は、将来の介護費用や生活資金に直結する重要なものなので、適切な等級を獲得して正当な賠償を受けるためにまずは弁護士に相談してみましょう。
高次脳機能障害の異議申し立てはご相談ください
当事務所では、高次脳機能障害に悩む被害者様とご家族のために、無料相談を実施しております。「この等級が妥当なのか知りたい」「異議申し立てで等級が上がる可能性があるか教えてほしい」といった疑問に、経験豊富な弁護士が丁寧にお答えします。
まずは、現在お手元にある後遺障害等級認定の結果通知書(「後遺障害等級認定のご連絡」、「自動車損害賠償責任保険お支払不能のご通知」)をご用意のうえ、お気軽にお問い合わせください。理想的な結果につながるよう全力でサポートいたします。
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