家族が交通事故の被害に遭い、その後入院やリハビリ期間を経てケガは完治したはずなのに「以前とは人が変わったように性格が違う」ということがまれに起こります。また、物忘れが激しくなったり、以前はできていた家事や仕事の精度が落ちてしまうといったケースも。このような内面的な変化は、実は交通事故が原因で起こる脳への損傷によるものである可能性があります。
本記事では、こうした交通事故後に起こり得る変化の可能性として考えられることや、それに対する家族の向き合い方をお伝えします。
交通事故後に起こりやすい内面的な変化

内面的な変化は、本人が自覚できるケースはほとんどありません。本人の無意識に行動や性格に現れるため、家族や親しい友人など付き合いの長い周囲の人が違和感を覚えて初めて発覚することが多いです。その変化の一例として、主に以下の2つがあります。
性格や感情の変化
1つ目が、性格や感情の変化です。穏やかだった人が怒りっぽくなったり、相手への気遣いができていた人が頑固で自己中心的な行動を取るようになるといったことが考えられます。感情のコントロールができず、急に泣き出したりイライラしやすくなったりすることも。本人としては普段通り生活していても、周りから見ると別人のように思えるため、すぐには受け入れられず戸惑ってしまう家族も多いようです。
記憶力や注意力の変化
2つ目が、記憶力や注意力の変化です。以前なら問題なくこなせていた家事や仕事にミスが増える、話している内容をすぐ忘れる、集中力が続かず注意散漫になる、などが代表的です。もちろんこれには疲れや睡眠不足、加齢などさまざまな要因が考えられますが、生活習慣は変わらないのに事故を境目にこうした変化が頻繁に見られる場合は、事故により脳に影響が出ている可能性が高いでしょう。
変化の原因は「高次脳機能障害」かも?

こうした変化の原因として、「高次脳機能障害」が考えられます。高次脳機能障害は注意・集中力、記憶・記銘力、遂行機能といった高次の脳機能に障害を受けた状態のことで、脳梗塞や脳卒中により生じることが多い症状ですが、交通事故の脳損傷によって発生する場合もあります。
重症な場合は、食事や入浴など日常生活で介護が必要になるほど脳の機能が奪われるケースも。一方で、比較的軽度な症状であれば、治療や入院、リハビリを経て問題なく日常に戻れることもあります。ただし、外見は回復した場合でも、ここまで紹介したような症状が後遺症として残り、日常生活や就労に影響が出ることもあるという点に注意が必要です。
断定には医師の診断が欠かせませんが、高次脳機能障害について理解を深め、その可能性を疑っておいて損はありません。高次脳機能障害の診断基準や見逃される理由をお伝えします。
高次脳機能障害の診断基準
高次脳機能障害の診断には、以下3つの要素が重要です。
- 事故直後に意識障害がある
- CTやMRIの画像診断で脳の損傷・変化がある
- 性格や感情、記憶力や注意力の変化など事故前と異なる日常的な症状が見られる
今この記事を読んでいるあなたは、おそらく現在「3」の状態に悩まれていることでしょう。それを客観的な事実として証明ができること、加えて「1」もしくは「2」の事実があるかどうかが診断の分かれ目になります。
高次脳機能障害が見逃されやすい理由
それではなぜ、医師であれば間違いなく理解のある高次脳機能障害という症状が見逃されてしまうことがあるのでしょうか?その理由は、主に2つあります。
1つ目が、画像検査で異常が見つからないことがあるためです。画像検査には様々な方法がありますが、万能な一つの方法があるわけではなく、実施された画像検査によっては、明確な異常が映らない場合に脳の機能に障害が残るケースがあります。また、損傷が軽微で医師が見落としてしまう可能性もゼロではありません。
2つ目が、性格変化や記憶力の低下といった症状は日常生活の中で発覚するものであり、短期的な診断期間の中では把握しづらいためです。当然ながら医師は被害者の事故前の性格や能力を知らないため、事故前後の変化は身近な人にしかわかりません。
こうした理由により、専門家である医師でさえも高次脳機能障害を見逃してしまうケースがあるのです。
また、被害者の家族も、重大な事故であればあるほど、命が助かったこと自体に安心し、性格の変化等を見過ごしてしまうことが多いともされています。
高次脳機能障害の後遺障害認定と該当する症状
高次脳機能障害は、症状が軽度でも後遺障害の認定対象になります。後遺障害等級の目安として、就労はできるものの作業中のミスや物忘れなどが頻繁に起こる場合は「後遺障害等級7級」、問題解決能力や作業効率に問題がある場合は「後遺障害等級9級」が一般的なので、日常生活にさほど問題はなくても被害者の性格変化や記憶力低下に悩まれている場合は、この2つのいずれかが該当する可能性が高いです。
医師からの診断を受けるでなく症状に合った適正な後遺障害等級が認められれば、慰謝料や逸失利益(事故が原因で収入が減るなどの被害相当分)などが考慮される可能性が高いので、加害者に対する損害賠償請求にも大きく影響します。
なお、高次脳機能障害の後遺障害認定のポイントに関しては以下の記事で詳細に解説していますのでぜひご参考ください。
高次脳機能障害であれば保険会社との示談交渉の材料にできる

交通事故発生以降、加害者や加害者側の保険会社と損害賠償を含めた示談に関するやり取りをしている方、もしくはすでに話が付いた方もいるでしょう。
もし被害者が高次脳機能障害と診断された場合、示談成立前であれば診断書や検査結果をもとに損害賠償額を増額できる可能性があります。保険会社は外傷が大きくなければ軽症と判断して話を進めることがありますが、脳の後遺障害が認められることで賠償額は大きく変わります。
また、すでに後遺障害等級の認定が終わっている場合でも、症状が見落とされていた場合は異議申立てをすることで等級が見直されることもあります。ただし、異議申立てで結果を覆すためには専門知識と適正な等級を証明できる書類が必要なので、交通事故に詳しい弁護士の協力が不可欠です。
家族のために今からでもできること
事故から一定の期間が経過した場合でもできることはあります。それによって被害者にとって最適な対応を取れたり、金銭的負担を抑えられたりすることがあるので、諦めずにできることから着手しましょう。
正確な症状の把握と記録
交通事故の前後で被害者にどのような変化が生じたかを日単位もしくは週単位で記録しておくことが大切です。「忘れ物が増えた」「感情の起伏が激しくなった」「家事や仕事でミスが増えた」など、些細なことでも文章や写真で残しておくと診断や示談の場面で有力な資料になることがあります。職場や学校での変化があれば、家族以外の第三者の意見も参考になります。
医療機関で再検査・再受診
当時の検査で異常が見つからなかったとしても、再検査の結果発覚するということもあります。現在の症状を整理し、正確に医師に伝えることで後から高次脳機能障害の診断を受けられることも珍しくありません。少しでも疑いがあれば再受診することをおすすめします。
専門の弁護士への相談
示談の円滑化や損害賠償の増額などを見据えるのであれば、弁護士に相談するのが最も有効です。交通事故や高次脳機能障害の事案に対応したことがある弁護士であれば、医学的知見を踏まえた的確なアドバイスが可能です。診断書の取得や後遺障害申請のサポート、保険会社との交渉も依頼できるため、家族の心理的負担を大幅に減らせるでしょう。示談前はもちろん、示談後の異議申立てにも対応可能なので、まずは相談してみましょう。

まとめ
交通事故後の記憶力低下や性格の変化は、脳の損傷によって生じる高次脳機能障害の可能性があります。外傷は回復しても内面的な変化がある場合は早めに状況を整理し、医療機関や専門家へ相談することが大切です。正確な診断を得られれば、示談や損害賠償で適切な補償を得ることにつながります。
高次脳機能障害の疑いがある場合は弁護士にご相談を
本記事を読んで「もしかしたら家族が高次脳機能障害かもしれない」と心配されている方は、ぜひ「交通事故の相談窓口」の弁護士にご相談ください。医学的・法的両面からサポートが可能なので、医師の再受診の前にお問い合わせいただいてもその後の最適な対応をご提案できますし、以降の書類の手配や保険会社との示談交渉もお任せください。
まずは状況を共有いただき、今取るべき最善の方法を一緒に検討していきましょう。
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